4.1 タンザニア側の援助実施体制に対する提言
これまでの分析を基に、タンザニアに対する日本の援助実施体制に関しての提言を以下に記す。
(1) タンザニア政府のキャパシティ・ビルディングに対する支援
1995年のへライナー・レポート以降、タンザニアにおいては援助協調の議論が活発化し、タンザニア政府とドナーが開発事業の実施手続きの共通化を図りながら開発政策を進めるSPが大きな流れとなりつつある。タンザニアのような援助吸収能力の乏しい途上国において、援助協調は首尾一貫した開発プログラムを実施する上で不可欠である。援助協調、SPはタンザニアのオーナーシップを尊重し、タンザニアの開発を進めるものでなければならず、タンザニア側にも援助を吸収・実施するキャパシティが要請される。
タンザニアを含むサブ・サハラ・アフリカの多くの国では、中央・地方政府、各セクターの担当省庁の組織・制度が未整備であり、各セクターに関する担当者の専門知識・技術といったキャパシティが不足している。タンザニア政府においても組織的・制度的・財政的キャパシティが不足していることは、各セクターで行われているセクター別開発計画においても指摘されている。
人材、組織・制度等のキャパシティ不足がいわれる一方で、タンザニア政府は、外国人専門家による技術協力に対して、かかった時間と費用ほど重要な技術が現地関係者に十分に移転されていないと批判的に見ている。ヘライナー・レポートでもこの点を取り上げノルウェー、オランダは技術協力の見直しを行った。ノルウェーは2000年6月にノルウェー人専門家とボランティアの制度をなくし、ノルウェー人専門家の派遣を中止した。しかしながら、他の多くのドナーは専門家派遣の意義を認め、現在でも技術協力を継続しており、セクター別開発計画の中でキャパシティ・ビルディングのために技術協力を活用している。タンザニアの大蔵省も、同国に必要な能力を移転する技術協力は必要であると認めている。
我が国はこれまで案件形成能力、計画策定能力等の援助吸収能力、キャパシティがあることが前提となっていたアジア諸国を中心に援助を実施していたために、要請主義や自助努力支援といった基礎的要件でプロジェクト型の案件を形成することができた。しかし、タンザニアでは上記キャパシティが不十分であり、プログラムの実施前、もしくはプログラムの枠内で技術協力を利用したキャパシティ・ビルディングを行う必要がある。
タンザニアにおいて、我が国は技術協力を効果的に利用したキャパシティ・ビルディングの経験を豊富に有している。今般の調査によれば、タンザニアで長期間にわたって行われてきた日本の技術協力は、人材育成と組織強化、技術移転において一定の成果を残しており、キャパシティ・ビルディングを促進するためにも、今後も技術協力は重視していくべきである。キリマンジャロ州における灌漑農業の成果は、技術協力の重要性を主張するのに、よい一例と言えよう。我が国の技術協力は、コモン・バスケット、財政支援を行うに十分なキャパシティが備わっていないセクターに対しキャパシティ・ビルディングを支援し得るものである。
我が国は農業分野のこれまでの協力実績を踏まえ、同分野のSPで中心的な役割を担いつつある。すなわち、2001年3月より開発調査スキームを利用した「タンザニア国地方開発セクター・プログラム策定支援調査」を立ち上げ、その中でセクター開発計画の策定支援を行っている。主な活動は、日本側メンバーがFASWOG(Food and Agricultural Sector Working Group)タスクフォース会合やドナー会合に参画しながら、タンザニア政府及びドナーとの援助協調を支援することと、現地における情報収集・分析や現地踏査により我が国がセクター開発計画の策定プロセスに参画しながら経済協力を行っていくための方向性にかかる提言を行うことである。
我が国が、協力経験が豊富な農業セクターにおける開発計画の策定・実施で主導権を持って協力を行っていることは正しい選択と考えられる。我が国の農業セクターにおける支援は、SPによる援助の成功例となるかもしれない。ただし、農業開発という分野は稲作だけでなく多様な技術を要し、気候等不確定な要素も多く、計画策定が難しい分野である。こうした計画策定が難しい分野ではタンザニア、他のドナーとのコンセンサスを重視していくことが必要である。
農業セクターにおける我が国の現今のプログラム策定支援から、さらに深くプログラムの策定・進捗・監理に関わっていくためには、タンザニアの農業分野への政策アドバイザーの派遣が必要である。農業省の計画・立案に関する政策アドバイザーは、現状ではヨーロッパ諸国等のコンサルタントで占められている。我が国からも、農業セクターの計画・立案分野へ専門家を派遣することは、タンザニア政府の政策方針に対する理解、影響力を深め、予算の詳細および予算管理の能力を把握するうえで重要となる。しかしながら、役務代替型の外部コンサルタントによる政策分野への深い介入はタンザニア政府のオーナーシップを阻害する恐れがあるため、援助プログラムに対するオーナーシップを尊重する姿勢を保つことが重要である。
PRSPでは、援助資金のモニタリング・評価のツールとしてPER・MTEFが利用されており、モニタリング・評価体制を構築するために、データの収集、蓄積、共有、分析等、全てのレベルでのキャパシティ・ビルディングが必要とされている。モニタリングを各ドナーが協調して実施することが議論されているが、PRSPモニタリングは政策レベルのモニタリングであり、外務省の評価担当部局がこうしたモニタリングに関与することは、PRSPが中心的戦略となり、援助協調が潮流となっている今日、検討すべき課題である。